■■あらすじ■■
岩舘紗江子(29)と鍼灸師の水沢(29)は身体だけの割り切った付き合いをしていた。
水沢に総合病院の一人娘理絵(20)との縁談があるという噂を聞き紗江子は
水沢から距離を置くが、腱鞘炎(けんしょうえん)の痛みで再び水沢のいるクリニックへ…
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■■STORY■■
「紗江子さん、腕つらそう。腱鞘炎(けんしょうえん)調子悪いんじゃない?」
「ありがとう。病院行かなきゃダメだね。」
実家でピアノ教室を開いていたものの昔からの腱鞘炎が悪化し教室は閉鎖して
今は実家を出てカード会社で働いている。
パソコンの入力業務は極力控えめにしてもらっているけれど今日は仕事が多くて
定時を過ぎてもまだ仕事が終わらない、入力業務も協力せざるを得ない
「まだ残業していくの?」
「うーん…あと1時間くらい、かな?」壁の時計をながめる
「無理しないでね。私今日稽古だから、もう帰るけど…」
「うん。あ…玲ちゃん。悪いけど、帰るついでにこの書類持って行ってくれる?」
「りょーかい!じゃ、お先に失礼します。」
「お疲れ様。」
帰っていく彼女の背中を見送る、夢があって生き生きしている姿を羨ましく思う。
劇団員の彼女は劇団のチケットノルマと生活費で給料のほとんどは消えてしまって
会社にもジーンズとTシャツで通って来る、でもいつも楽しそうにしている。
ひきかえ私は目標を見失い虚しさから、行きずりの男と一夜かぎりの関係を
持っていた頃もあった。
自宅近くの整形外科のクリニックは閉院時間が遅いのでよく通院していた。
クリニックへ行くのは2ヶ月ぶり緊張と同時に期待もしている。
診察券を受付に出す、医師がカーテンから出てくるのが見えた。彼だ!
「岩館さん。こんにちは久しぶりですね、今日はどうしました?」
「お久しぶりです。腱鞘炎の調子が悪くて…それで鍼をお願いしたいんですが…」
「季節の変わり目ですしね。じゃ中でちょっとお待ちくださいね。」
「はい。」受付からドアを開け診察室へ入り案内されたカーテンの仕切りの中へ入る
「こちらでお待ちください。」
「あ、水沢先生。ちょっと腰の調子も悪くてマッサージもお願いしたいんですけど。」
「デスクワークでお疲れですね。スウェット用意しますね。」
スウェットを受け取り、カーテンを閉める。なんとなくため息が出る。
彼、水沢医師とは2ヶ月前まで半年ほど関係を持っていた。
仕事帰りに途中下車した駅で偶然会ったのがきっかけだった。二人で飲んでいて彼に
「岩舘さん今日誕生日ですよね、おめでとう。」
「え?どうして私の誕生日ご存知なんですか?」
「カルテ。生年月日記入してありますからね。」
私ですら忘れていた誕生日を覚えていてくれる人がいた。心が満たされた。
店を出ると二人とも酔ったいきおいで手をつないでいた
ラブホテルの前で立ち止り入口の塀に押し付けられるように抱きしめられてキスをされた
私も彼と舌をからませる。通りすがりの若いサラリーマン風の男が私を見ていた
私達の痴態を思い出し家で自分自身を慰めるのだろうか?
そんなことをぼんやり考えると気持ちが高ぶっていった。その日彼と関係を持った。
スカートからスウェットに穿き替え仕切りのカーテンを開けて待つ
初めて関係を持った日のことを思い出したせいで落ち着かない
「水沢先生、着替え終わりました。」通りかかったところへ声をかける
「じゃ先に鍼打ちますね。」
手際よく準備をし私の腕がアルコール消毒され鍼が打たれる、沈黙が気まずい
「遅くにすみません。もしかして私今日最後の一人ですか?」
「そうですね、大丈夫ですよ。テーピングは?しておきますか?」優しい声
「あ、はい。お願いします。」テープを腕に巻かれ貼り付けられた
「じゃ腰ほぐしていきましょう。うつぶせになってくださいね。」
「はい…」
施術台にうつぶせに横たわる、背中からゆっくりと力強く彼の手が動く
ふいにラブホテルのベッドの上で彼に愛撫されて言われた言葉を思い出す…
「ここ、感じやすいでしょう。気がついてたよマッサージ中…濡れてるの…」
関係を持つ前から彼のマッサージで感じていたし彼とセックスしたいと思っていた
マッサージの手が腰から尻へ移動する、あえぎ声が出そうになる
このまま彼に奪われたい。でもお互いありきたりな会話をする、マッサージが終わり
「じゃ今日はこれで終わりです。」
「ありがとうございました。」
彼はカーテンを閉めて出て行った。
以前マッサージの後、本能に抵抗できず施術台で自分一人で慰めたことがある。
カーテン一枚で仕切られ、様々な機械の小さな音にまぎれ、すぐに淫らな儀式を始める。
バッグから小型のローターを取り出す、白いリップクリームにしか見えないローター。
そのローターをスウェットの中につっこみ下着の上からクリトリスにあてる
ローターの底部をねじると先端が振動する、念のためブランケットでその部分を
覆いローターの振動音を抑える、思わず出そうになる声を必死でこらえる
…彼との行為が思い出される…
私の身体を知り尽くしたような愛撫に蕩け、汗だくになった肌と肌が密着して
うつ伏せにされベッドに押し付けられるように背後から突かれた
「紗江子さんの身体思い出して、僕はオナニーしたよ…紗江子さんは?
したでしょう?僕のマッサージ思い出してオナニーしたんでしょう?」
他の男から言われれば不快で卑猥な言葉も耳に心地よかった…
彼とのセックスを思い出すと恐ろしいほど早く
「…っ!!」頂点を迎えてしまう。息を切らした状態ですばやく着替え
化粧直しに時間をかけた様な素振りをするため、わざと濃い口紅を塗る。
カーテンを開けると受付の外から若い女の声がした
「こんばんは。水沢さんいますか?」彼が応えた
「理絵さん、こんばんは。」
この女と顔を会わせたくはなかったけど受付に向かうしかない
彼女も私の姿を見ると顔を曇らせた。私は会計を済ませクリニックを出た。
3ヶ月前。彼に総合病院の一人娘との縁談があるという噂を聞いた。
その相手がさっきの理絵さんでまだ大学生らしい。
彼女は水沢先生と私の関係に薄々気づいたようで出くわすたび嫌な顔をされた
自然とクリニックから足は遠のき彼と連絡を取ることもなくなった
彼から私に連絡はない、彼は縁談のほうを選んだ。それだけのこと。
私達はただのセックスフレンドそれ以上でも以下でもなかった。
頭では分かっても心は痛む、私にとって身体だけの関係ではなくなっていた。
マンションへ戻ると疼きのおさまらない身体を鎮めるために再び自分で慰め始める
Truthという名前のローター、和訳すれば真相か真実
クリニックで使った白いタイプのローターともう一本黒いローターがセットで
黒いローターはリップクリームタイプの白より大ぶりで先端が45度に曲がっている
早々にベッドへ横たわりストッキングと下着を脱ぎ捨て指で陰毛を掻き分け探ると
ねっとりとしていた。黒いローターをゆっくりと中に入れ先端の曲がった部分を
内部の敏感な場所へ滑らす、動作は白と同じ。底部をひねると振動する
また彼とのセックスを鮮烈に思い出す
…彼は私の上で汗だくになり熱いものを出し入れするように腰を動かす
彼の表情は美しかった。他の男の行為中の表情を美しいと思ったことはない
私に覆いかぶさり激しい息が私の耳にかかり甘く切ない気持ちになって
彼の腰に強く脚をからませた…
「あ、あっ…ああっ!」
誰一人いない自分の部屋で思う存分声をあげる、つま先がたち両脚がつっぱる
腰が小刻みに動く、ローターは振動し先端が深い溝の秘密の場所をとらえて
「ああっ!!」
快感と切なさが同時におとずれた。
昔、実家でピアノ教室をしていた頃。生徒からテレビゲームの曲をCDで聴かされ
ピアノでひいてくれとせがまれたことがある。ゲームは私には全く分からなかったけど
ゲームの曲とは思えない神秘的な曲でCDを聴いてすぐに気に入った。
ある時。彼との行為が終わった後その曲のハミングをしていたら
「…それ、なんていう歌?」眠っていると思っていた彼の言葉に驚いた
「名前忘れたわ…テレビゲームの曲なの…」
「ふぅん…いい曲だね。続けて…」子守唄を歌うように彼に寄り添った
虚しい想いをうめ合わせたいのだろうか?そんなことを思い出していた。
週2回ペースでクリニックに通うようになっていた。腱鞘炎はほぼ良くなっているけど
彼に会いたくてつい通ってしまう、何度も理絵さんと出くわした。
彼女は私を見ると水沢先生と親しげに振舞い私に見せつけているようだった
そんな彼女の姿に苛立ちを感じる。
「すみません今日も肩と腰、両方お願いします。」
「はい、大丈夫ですよ。定期的にマッサージを受けるのはいいことですからね。」
医師らしい朗らかで優しい対応、でも心の中で私をどう思っているのだろう?
肩からマッサージが始まる肩甲骨のあたりを押されると肺に圧力がかかって
自然に息が出る、吐く息で条件反射的にマッサージの手が愛撫に感じられる
彼の手は背中から腰、尻から脚、ツボを重点的に押している
お尻のツボを押されると切ない声が漏れて身体がビクンと反応しそうになる
…また思い出にとらわれる…彼に後ろから攻められ
「仕事で紗江子さんの身体に触れると…欲望に負けそうだった…」
激しい息で途切れがちに言われ
「私も、私も…ずっと欲しかったの!」
その時の私は何度も達していた…
彼と理絵さんは、もう肉体関係があるのだろうか?
そうだとしたら、あの若く張りのある肌を彼はどんな風に愛撫するのだろう?
あの乳房、腕、腰、尻そして男を受け入れる部分を、私にした愛撫より優しく?
それとも激しく?二人の絡み合う姿を想像したら嫉妬で疼き下着が湿ってきた
脚を移動させられた時かすかな水音がした、彼は気づいたようだった。
激しい嫉妬でいっそ彼に犯されてしまいたい!何事もなかったように冷静な声で
「はい。今日はこれで終わりですよ。」
「…ありがとうございます。」
彼が仕切りのカーテンを閉めると私はすばやく黒いローターをバッグから出して
下着の中に手を入れてびっしょり濡れたそこへローターを挿し込む
そして獣の様に欲望に身を任せ振動するローターを何度も出し入れする
彼とのセックスの記憶で頭の中がいっぱいになって、そして
「…う…っ!…はぁっはぁっ…」
その瞬間、施術台がギシッと音をさせた
ローターをくわえ込むように何度か痙攣した。余韻に浸っているとカーテンが
スッと開かれ入って来た人物がいた、理絵さんだった。彼女は私に近寄り小声で
「ねぇ、何してるの?」
彼女は驚きで言葉も出ない私に追い討ちをかけるように言い続けた
「…ひとり遊びしてたんでしょう?寂しい人ね。隠さないで見せなさいよ!」
隠しているブランケットを剥ぎとられそうになり、つい大声を出してしまった
「や、やめてくださいっ!」
「あなたのほうこそ、やめてほしいわ。病院でいやらしいマネして。」
騒ぎに気づいた彼がカーテンを開けて私達を見た
「理絵さん!何をしているんですか?患者さんに迷惑です!」
彼女はふて腐れたような顔をして
「だって!この女診察室で…い、いやらしいことしてたのよ!」
今日にかぎって患者も多く彼に惨めな姿を見られ顔から火が出そうになる
彼は理絵さんを診察室から連れ出しカーテンを閉め外で話を続けた
「理絵さん、ここは病院です。あなたのしていることは迷惑なことなんですよ。
お父さんが病院長をしてらっしゃるのですから分かるはずです。もうお帰りください。」
クリニックは静まりかえり彼女がドアを激しく閉める大きな音が響いた。
私は身なりを整えクリニックからすぐに出て行けるように診察代のお金を財布から
出して小走りに受付に向かった、彼は動揺した様子で
「…岩館、さん…大丈夫…ですか?」
彼の前を素通りし何も答えずに受付にお金を置いてクリニックを出た。
マンションに戻ると疲れ果ててベッドに身を投げ出しぼんやりしていた
嫉妬と惨めさ、様々な感情が湧き上がる。不思議と現実的なことも考える。
あのクリニックには二度と行けないから他を探さなければならない
でも、もう二度と彼には会えない。
2〜3時間そんな状態でぐったりしているとチャイムの音がした
外から呼びかける声、彼の声だった。ラブホテルでしか会ったことがないのに
どうして私のマンションが分かったのだろう?
「夜遅くにごめんなさい、保険証を忘れて行ったので。悪いと思ったんですが
保険証の住所見て来ました。保険証だけでも受け取ってください。」
今日は月初めだったから保険証を提出していた。彼と顔を合わせるのは
気まずいけど保険証がないと困るし、ほんの少しでも彼の顔を見たい
混乱した気持ちのままドアを開ける
「…持ってきてくださって、ありがとうございます…」
「…あの、大丈夫ですか。少し話しがしたいんですけど…いいですか?」
「わかりました。じゃ、玄関でお話ください。」ドアを閉め彼を中へ入れた
「理絵さんとの縁談の噂を知って僕から離れてしまった気がしていて…」
「………」
「恥ずかしいけど。初めは野心から縁談を受ける気でいました…でも理絵さんと
食事に行っても映画を観ても楽しめなかった。なんだか寂しくて、そんな時は
いつも紗江子さんのことを思い出していました。」
「…それは…私と身体の相性が良かっただけなんじゃ?彼女とは…」つい卑屈になる
「理絵さんとは身体の関係はありません。…覚えていますか?ハミングしていた曲。
紗江子さんの歌声が忘れられなくて、また歌を聴きたかった………ごめんなさい
もう帰ります。」
あの時の不思議で穏やかな時間を彼も覚えていてくれた。
凍りついた心が溶けだし暖かい涙が溢れた
「待って!帰らないで!」
抱きついて子供のように泣きじゃくる私を彼は優しく抱きしめていた。
* END *
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