わたしはどうしようもない女だ。普通ではない、と言ってもいい。
極端に性格がひねているわけでもなく、容姿だって普通……だと思う。一応出るところはそれなりに出ているし、そうでない部分はスッキリとくびれている。
顔だってひどく不細工というわけでもない。少なくとも賑やかな繁華街を歩けば、下心丸だしの男たちに声をかけられることもある、という程度には人並みだ。
では何がどう普通ではないのかというと──。
ひとことで言えば、わたしは淫乱なのだ。
もう自分でもあきれるほどの好色で、ほぼ変態かもしれない。
初めて自分の本性を知ったのは、小学四年生の頃だった。
父はわたしが生まれてすぐに他界したが、母はとても実直な人柄で、兄と姉もその影響をもろに受けていた。ところがどうしたわけか、そんな家族のなかでわたしだけが淫靡な性癖に目覚めてしまったのだ。
最初のうちはお風呂場で自分の体にイタズラする程度だった。
それは自慰とさえ呼べない遊びの範疇だった。ただ自分の体にそういう器官があることをうっすらと理解し、体を洗うついでに大事な部位を撫でまわすことでうっとりしていたに過ぎなかった……。
だが人間、どんなことでも習慣になると物足りなくなってくる。やがてわたしは愛撫だけでは満足できなくなり、ついには大切な膜を自ら裂いた。
それまでの下積みがあったおかげなのか、痛みや恐怖はまったくなかった。
しかもわたしの中に押し入ったのは自分の指ではい。いきなりモノを使ったのだ。
モノはソーセージだった。我ながらあきれた。だがその羞恥さえ快感の一部として利用したのだから、やはりわたしは好きモノだったのだ。
しかもそれは計画的だった。ソーセージを買う段階からだ。
何がいいかあれこれ考えたあげく、わたしは自分で試食してみてあるメーカーの商品がもっとも適した弾力と硬さを持っていることをつきとめ、それとなく機会をうかがって母に買わせたのだ。今思うとすごく良心がとがめる……だが当時のわたしは必死だった。まるで発情した猫みたいで、生甲斐さえ感じていたのだ。
当日──わたしは仮病を使って学校を休んだ。
そして母が外出した隙をうかがい、行為におよんだ。
いつ母が帰宅するかもしれないというスリルをかみしめながら、わたしは包装を解いた剥き出しのソーセージを自分のなかへと迎え入れた。
「ああぁ……ッ!」
自然に甘い声が出てしまう。なんてイヤらしい小学生だろう。
だがそのときの快感は今でもよく覚えている。
入れたとたん、下腹部から甘い電気が全身に走った。そのまま失神するのではないかと思った。そして初めてだというのに、わたしの小さい器官からすれば充分に極太のソーセージは、しかし恐ろしいほど自然に入った。もっともそこへ至るまでの期待感だけで、すでにわたしのアソコはしっとりと湿っていたのだが。
「はっ……はぁっ…」
すぐに息が荒くなり、夢中になった。
始めはただ入れて押しつけているだけだったが、すぐに色んな動きを加えるようになった。回してみたり、ひねってみたりしながら、快感の波に合わせて出し入れした。
最初のうちは母が帰宅するかも──という恐怖からくぐもったうめきでしかなかった声も、次第にエスカレートして出し入れするたびに「んっ…んっ、あっ……」と、淫らな発声になった。もしかしたら家の外にまで聞こえていたのかもしれない。
それくらい我を忘れていた。
甘ったるい、体中が痺れるような快感に身をよじり、わたしは初めての経験で絶頂というものを知った。夢中になり過ぎてソーセージが中でちぎれてしまい、それを取り出そうしていて再びイヤらしい気持ちになってきて、結局そのまま自分の指でもイッってしまったのだから、ほとほと救いようのないアバズレだ。
なんて恥かしい人間なんだろう、と、行為のあとに思った。
だがそれ以上にそのときの快楽は魅力的で、それを失いたくないあまり、わたしはあっさりと自分が淫乱な女であることを認めてしまったのだ。
その日を堺に、わたしは変質したのだと思う。
そしてわたしにとっての世界が変った。
あらゆる事柄に際して、わたしは『ふしだらな自分と他者』を感じるようになり、次第に自分の存在を周囲の人たちから隔絶していった。
もちろんそれ以来、行為のほうもエスカレートするいっぽうだった。
中学になったころには、わたしはすでに立派な変態だった。前だけなく、お尻の穴まで処女ではなくなっていたのだ。それもただ異物を出し入れするだけに留まらず、液体を注入することを覚えていた。
俗に言う浣腸だが、その当時のわたしにはそうした知識も乏しく──そもそも中学生の身で怪しげな専門誌や道具など買えなかったからだが──もっぱら水道を利用していた。
風呂に入り、そういう気持ちになると、わたしはすぐに自分専用に買っておいた清潔なホースを持ち出した。
もちろんあらかじめ必要な長さにカットしてあり、体の内部を傷つけないように角を丸く落としてある。念のためその先端には穴開きの手袋の指がはめてある。手術などで使う、手にぴったりとフィットするアレだ。清潔でもあるし、ちょうど避妊具に似ていて実に具合が良かった。
当然だが一回分のホースは使いきりだ。
ホースの内と外を丹念に三回洗浄して、さらに消毒液で全体を拭う。もうそこまでの作業でわたしのイヤらしい股間はジンジンうずき、掻き回してほしくてたまらないといった様子ですっかり濡れきっていた。
体の火照りに耐えながら、もどかしくホースを水道へつなぐと、その先端をお尻の穴にあてがった。
動物みたいに四つん這いになった恥かしい格好で、ヒクヒクするお尻の穴でホースの感触を味わい、それからゆっくりと挿入する……。
細いホースはいつでもほぐれている穴にスルスルと入ってしまう。
「はぁっ…」と息をつく。それだけでもイきそうだった。
そしてホースの先端で直腸のひだを弄ぶ。
ホースの先が内部のひだに触れ、奥に当るたびに快感が走り、体が「ビクン」と痙攣して頭が上を向いた。
やがて小さな絶頂を何度か終えると、今度はそれを出し入れしながら前の部分も指でまさぐり、さらによがる。家人がいないときはつい声も大きくなる。仮に家族が居たとしても、それはそれで声を押し殺すのもまた快感であったりした。
やがて頃合をみて、水道の蛇口をひねる──。
「くふぅッ……!」
冷たい水が一気にわたしのお尻をいっぱいにした。
その膨張感はすぐにお腹のあたりまで登ってくる。
膨らんでゆく腹部の感覚を味わいながら、さらに前の穴を責める。
「はっ、はあ……あぁっ!」
気が狂いそうな快感に襲われる。
もう快感なんてものではなかった。頭の中までが麻痺したみたいにトロンとなる。あるいは出産に対する幼児的な望郷があるのかもしれない。
すでに前のほうには指が根元まで入っていた。指の動きも激しさを増す。クチュクチュといやらしい音をたてる。動物みたいに腰をくねらせる。「あっ、あっ……いいっ──!」もう何度イッたか知れない。
そしてお腹の中でグルグルと渦をまく水流がさらに快感を促す。無意識に体をくねらせてよがる。下腹が膨れてゆくのを感じる。
そうやって限界が来るまで、自分のお尻を水に犯させながら前の穴を責めたてる。
この時点になると、すでにわたしは人間でさえなかった。
なにかわけのわからない生き物……ただ快楽だけを感じる神経と器官をもった、細胞のかたまりみたにな気分になる。体中の穴という穴から色んなものが流れてゆくような感覚と気持ち良さ。
そして腹部がはちきれそうになり、限界を迎えると蛇口を閉めてホースを抜いた。
抜くときの感触がまた快感だった。
「かはぁっ…!」思わず声が出る。
そのままお尻の筋肉を締めてじっと耐える。耐えながらまた前を責めて感じる。
そうしていよいよとなると、急いでトイレへかけこんだ──我が家の風呂場はキッチンから見える位置にあり、トイレは風呂場の向いだった。天井からぶら下がるアコーディオンで目隠しがされているものの、風呂場とトイレを裸で(しかもトイレに向かうときは妊婦のようなお腹だ)行き来するスリルが羞恥心を刺激し、のちの快感を増長させる。
トイレにしゃがみ、一気にお尻の穴の緊張を解く──。
堰をきる濁流のような流れは、お尻の穴の内側と内部のひだをかき乱し、たとえようもない快楽をわたしにもたらす。
同時に前をイジりながら放尿する。
「あっ!……あぁーっ……!!」
もう自分でもどんな声を出しているのかさえ解らない。それくらいに気持ちよかった。
前と後の穴を犯しながら同時に放尿し、排泄する。
なんてイヤらしい、醜い行為だろう……。
だがそうやって自らを卑下すればするほど快感が増す。どうしようもない変態だ。でも止められない。それほどの快感。
苦痛と快感、羞恥と悦楽、そして耐自と開放──それら相反する精神と肉体の作用がわたしの脳内で瞬時に交錯する。混沌となってあらゆる神経を麻痺させ、行き場をなくした反応は快感に転化されて全身を包みこむ。
気が狂ってしまいそうな快感のなかで、わたしは何度も絶頂を迎えた──。
最初のうちは自己嫌悪にも陥ったが、やがてそれもなくなった。
もう手遅れなのだ。今更なにも知らない顔なんてできるわけがなかった。
そんなわたしに対する同級生たちの目は冷ややかだった。きっとわたしの奥深いところに潜んでいる淫らな性質を見抜いていたのだろう。
だがそれは女生徒の話で、男の子の大半はわたしから発せられる発情したメスの匂いを感じ、色づいた目でわたしの体を舐め回しているようだった。
だがわたしは彼らには見向きもしなかった。
当たり前に育った彼らが生殖としてのバリエーションをもっているとは思えなかったし、わたしの性癖がそれを許さなかった。
初めての男性は年上だった。
わたしは十四、彼は二十九になる社会人だった。
もちろん彼はわたしの性癖を受け入れられるひとだった。
わたしたちは数年のあいだ倒錯した性行為を楽しみ、そして別れた。
彼には妻子があったからだ。
わたしは聞き分けがよかった。何も言わずに別れ話を承諾し、そしてまたひとりぼっちになった……。
結局、彼はわたしには理解できない──また手の届かない清浄な世界を持っていたのだ。たとえ彼を手に入れたところで、きっといつかはわたしの元から去って行っただろう。陽の光のあたる場所へと……。
高校を卒業しても進学はせず、わたしは働きはじめた。
なにかしていないと落ちつかなかったのだ。
それは社会に出ることでしか得られない安住の地だった。様々な影と汚濁とを隠しもつ、世の中という社会でなくてはならなかったのだ。
そのなかにひっそりと埋もれていたかった。
今でもわたしはひとりだ。
そして夢みている。
ほんとうにわたしを理解してくれる“なにものか”に犯され、陵辱され、かれらからほとばしる想いのたけが、わたしのなかに強く注ぎ込まれる日々を。
──完。
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